芹花はたまらず、両手を悠生の首に伸ばし、しがみついた。
唇が悠生の首筋に触れ、逃げたくなるほど恥ずかしい。
けれど、恥ずかしさ以上の喜びに、体は震えている。

「写真を撮るだけの嘘の恋人は嫌だってずっと思ってた」
 
好きだとひと言言葉にすれば、素直な気持ちが次々と口を衝いて出てくる。
恋人の振りをした写真ばかりを撮っていたことも、今はもうどうでもいいような気がした。
礼美と修の披露宴に友達がちゃんと出席するようになんて理由、今はもう大したことではないとも。
星がキレイに見えないかもしれないと危惧するほど、地元は発展を続けている。
そのおかげで求人も増え、仕事を見つけやすくなっている。
だから、礼美の父親の会社以外に職を求めることもできるのだ。
地元の友達が礼美の披露宴を欠席しても大したことはないと、綾子から聞いていたのに。
そのことは胸にしまいこみ、芹花は悠生との写真を撮り続けていた。
それはただ、芹花が悠生を好きだからだ。
どんな理由であれ、悠生と一緒にいたかったからだと今ならわかる。

「芹花」
 
悠生の低い声が芹花の胸を震わせた途端、彼女の体はくるりと周り、カーペットに押さえつけられていた。
芹花の目の前に悠生の顔、そしてその向こうにベージュの天井がある。
悠生の手が、芹花の短い髪を何度か梳く。
その仕草がやけに甘くて気持ちがいい。
芹花はその刺激に笑い声を上げた。

「余裕だな」
 
悠生もつられたように小さく笑った。

「余裕なんてないです。ただ、悠生さんが近くて、格好良くて、見るのが恥ずかしいけど見なきゃもったいないから」
「そうだな。俺だって、好きな女が俺を好きだと言って体全部が震えてるんだ、瞬きするのも惜しいくらい煽られてる」
 
そう言った途端、悠生は芹花に唇を重ねた。
芹花も自分から唇を重ね、悠生の体を引き寄せた。