「うそ、重い?」
「じっとしてろ」
 
慌てて起き上がろうとする芹花を、悠生は抱きしめた。

「重いって言っても芹花の細すぎる体くらい平気だ。それに、好きな女が腕にいて逃がすわけないだろう」
「そんなことばかり言われても、どうしていいのか」
 
好きだと何度も言われて、芹花は体中が熱くなるのを感じた。
悠生に抱きしめられたまま黙り込む。

「芹花は? 俺から逃げたいか? そんなわけないよな」
 
どうして自信ありげにそんなことを平気で言うんだろうと、芹花は思うが、もちろん頷く以外他にない。

「ん? 違うのか?」
「……違わないし、逃げません。だって、私」
 
悠生に促されるように口を開いた芹花だが、そこで小さく息を吐き出した。
好きだと言いたいが、やはり照れくさい。

「えっと、私もですね、その」
 
視線を泳がせ、意味のない言葉を繰り返す。
好きだと言われたのだから、素直に答えればいいだけだとわかっていても、なかなか難しい。

「仕方がないな。じゃあ、俺の言うことに頷けばいいから。簡単だろ?」
 
面白がるように、悠生がそう言った。
どぎまぎしていた芹花は、ひとまず頷くが、緊張しているとわかる彼女の表情に、悠生は頬を緩めた。
そしてニヤリと笑う。

「芹花は俺のことが、好きだよな」
 
直球すぎる言葉に、芹花は瞬きを繰り返す。
無言の芹花に、悠生は余裕のある顔を近づけ答えを促す。

「違うのか? 俺の勘違い? そうか、残念だな」
 
次第に小さくなる悠生の声に、芹花は慌てて答えた。

「え、勘違いじゃないです。好きです、多分、初めて会った時から気になってた」
「うん。俺も一緒にハンバーグを食べたあの時から気になって仕方がなかった。気が合うな」
 
にんまりと笑った悠生に、芹花はこくりと頷いた。
照れくさくて恥ずかしくてたまらないが、芹花と同じ気持ちだと教えてくれた悠生のことが愛しくてたまらない。
会えば親密な距離感で甘すぎる言葉をかけられ、そのたびに芹花は悠生の気持ちを誤解してはいけないと気を引き締めてきた。
けれど、そんなこと、もう必要ないのだ。