「終了って、もう描かないのか?」
悠生は驚いて芹花を見つめた。
そこまで驚くことなのかと思いながら、芹花は頷く。
「絶対描かないと決めたわけじゃないけど、イラスト集を出せることになって、一区切りするいいタイミングかなと思って」
「だけど、楽しみにしてる人も多いし、俺だって。それに、芹花だって続けたいんじゃないのか?」
「それは……」
芹花は口ごもり俯いた。
悠生がここまで大きな反応を見せるとは思わなかったのだ。
黒板メニューを描くのをやめると簡単に決めたわけではないが、今はそれでいいと思っている。
芹花はどう説明しようかと考えた。
その時、スマホの音が部屋に響き、二人は顔を見合わせた。
「綾子がまた、写真のリクエストをしてきたのかな」
芹花はソファに置いていたカバンからスマホを取り出した。
「あれ、母さんからです。披露宴のことかなにかかな」
芹花はこの間も悠生といる時に母から電話があったなと思いながら、スマホをタップした。
「もしもし、母さん? どうしたの?」
『あ、遅くにごめんなさいね。仕事は終わってる?』
弾んだ明るい声が聞こえて、悪い電話ではなさそうだと安心する。
「うん、仕事は終わってる。なんだか嬉しそうだけどなにかあったの?」
『そうなの。あのね、杏実が音大に合格したのよ。それも特待生だから、学費はすべて免除だって』
「特待生? え、入試って年明けじゃなかったの?」
一月の入試に備え、お正月返上でピアノのレッスンを受けると聞いていた。
芹花は先週支給されたボーナスの中から、レッスン料の援助をしようと考えていたが、必要ないのだろうか。

