極上御曹司に求愛されています


けれど、瞬きをするたびに揺れるまつ毛でさえはっきりとわかるほど悠生の近くにいられるこの時間を、芹花は手放したくない。

「芹花?」
 
悠生は黙り込んだ芹花をいぶかし気に見た。

「どうした? 今頃酔いが回ったか?」
 
悠生がのどの奥で笑った。
軽く流すようなその笑い声はとても優しく、耳に心地いい。
どうして悠生は何度も芹花と会うのか、会えば恋人同士のような距離で過ごすのか、そして多少なりともリスクがあるはずの芹花と二人の写真を撮っては綾子に送るのかもわからない。
それでも、芹花はその心地いい笑い声を、まだ聞いていたいと思った。

「あの、コーヒーだったら私が淹れてもいいですか?」
 
悠生は笑顔を浮かべ、芹花を見つめる。

「……じゃあ、機械の使い方を教えるから、これからは任せる」
 
悠生は嬉しそうにそう言って、芹花の背に手を回したままキッチンへと向かった。

「コーヒーメーカーか……」
 
必要最低限の電化製品の中にコーヒーメーカーが含まれていたんだとおかしくなる。

「なに?」
 
悠生は首をかしげた。

「なにかおかしいか?」
「ううん。なんでもないです。ただ、コーヒーが好きなんだなって」
「星野さんの影響だな。芹花の黒板メニューを楽しみにカフェに通ううちにコーヒーが好きになったんだ。あ、そういえば、今月の黒板メニューはまだ見てなかったな。来週にでも見に行くよ。やっぱりクリスマスにちなんだ絵なのか? で、来月は正月だから、鏡餅とか?」
「えっと、それは……あっ」
 
悠生の問いに動揺した芹花は、小さくつまずいた。

「大丈夫か? やっぱり酔ってるのか?」
「いえ、そうじゃないんですけど」
 
芹花は口をつぐみ、瞳を揺らした。

「あの、実は、黒板メニューは今年いっぱいで終了することになってるんです」