極上御曹司に求愛されています


「あ、でも最近、ショッピングモールができて、二十四時間営業の大型書店も出店するし前ほど星が見えるかどうかわからなくて。こんな都会ほどじゃないけど地元も今では宝探し状態かも」
 
綾子と話した時は以前より地元で就職しやすくなると喜んでいたが、期待通りの星空を悠生に見せてあげられないなら、残念だ。

「披露宴で地元に帰った時に、変わらず星が見えるのか確認してきます」
「わかった。だけど、ここに俺の宝物はあるんだよな」
 
芹花の腰を、悠生が抱き寄せた。

「ん? 宝物?」
「そう、かわいくて、絵が上手な宝物」
 
いつもながら突然抱き寄せられて、芹花の体は震えた。
けれど、こうして悠生の体温を近くに感じることに慣れてきたような気がした。

「……写真、撮りますか?」
 
この流れでいけば、綾子に送るために写真を撮るはずだ。
芹花は写真のために、と自分に言い聞かせて体を悠生に預けた。
何度もこうして抱き寄せられれば、その居心地の良さは芹花が素直になる力となる。

「綾子のリクエストにぴったりだから、きっと大喜びですね」
「そうだな。じゃあ、とりあえず撮ろうか」
 
悠生はスマホを手にすると、夜景を背景にして芹花をさらに抱き寄せた。
そしてシャッターを切った。
確認した写真には、これまで撮ったどの写真よりもずっと大きな笑顔の二人がいる。
悠生は早速その写真を綾子に送った。

「本当に、綾子の条件を一発クリアしちゃいましたね。恋人の部屋で夜景とともに写真を撮る。さすが御曹司」
 
肩を抱く悠生の温かさが照れくさい。
芹花もつい早口になる。

「この家は長く住んでいるんですか? それにしては物が少ないような気がしますけど」
 
落ち着いて部屋を見回せば、二十畳ほどのリビングには六十インチはあるだろう壁掛けのテレビと、オフホワイトのL字型ソファがリビングの中央にあり、あとはガラスのテーブルがあるだけで、壁の隅には雑誌や本が高く積み上げられている。

「引っ越してきたばかりとか?」
「んー二カ月くらい? 忙しくてなかなか家具も増えないんだ。あとは寝室にベッドを入れて必要最低限の電化製品を入れただけかな。あ、コーヒーでも淹れようか」
 
コーヒーと言われ、芹花はふと我に返る。
悠生と離れがたく、流されるように自宅を訪ねたが、すでに夜も遅いし写真も撮って綾子に送った。
このまま悠生の部屋に二人きりで、コーヒーを飲むのはいかがなものか。
落ち着いて考えればさっさと帰るべきだとわかる。
ちゃんと言葉をもらったわけじゃない。
好きだとも、この先どうしようと言われたわけじゃないこともわかっている。