極上御曹司に求愛されています


「お兄さんとは、仲がいいんですか?」
「今は仲がいいけど、仕事を始める前は、そうでもなかったかな。年が五つ離れてるし何をやってもそつなくこなす兄貴が羨ましくて苦手だった。ピアノも勉強も兄貴に勝ったことなんてないし」
 
そう言いながらも口調は優しく、羨んでいる様子でもない。

「さっきの新聞の取材だって、本当は兄貴が受けるはずだったのが、急に仕事で海外に行くことになって、代わりに俺が受けたんだ」
「え、そうなんですか?」
 
思ってもみなかったことを聞いて、芹花は大きな声を上げた。

「これからを期待される三十代なんてテーマなら、俺より兄貴のほうがふさわしいからな。だから、俺に回ってきた時は驚いた。兄貴と比べたら、俺なんてこれという仕事の強みもない修行中の身だし。だけど、俺には強みもなければ断る理由もないんだよな」
「そうですか?」
 
芹花は、淡々と話す悠生の言葉に、切なさを感じた。

「まあ、マスコミが苦手な兄貴よりも俺の方が慣れてるし、いいんだけどな」
 
自分に言い聞かせるようにそう言った悠生の目は笑っていない。
それ以上何も言うつもりはないようだが、芹花はなんとなく悠生の気持ちがわかった。
優秀な兄弟を持つ複雑な思いは当事者でないと理解できないものだから。

「せっかく芹花が隣にいるから、少しでも星が見たいんだけど、やっぱり今夜は無理だな」
 
芹花が夜空を見ている悠生の視線をたどると、瞳を揺らして星を探していた。
子供みたいだなと芹花はそっと笑った。

「星がいくつか見える時があるんだよな」
「なんだか、宝探しみたいですね」
「宝探しか。だったらそのうち芹花の地元に行って、夜空を見上げて宝探しだな」
 
やはり地元に来るつもりのようだ。
芹花はどう受け止めればいいのかと悩むが、二人で地元の夜空を見上げるのも悪くないなと思う。
けれど。
その場合、二人の関係はどういうものなのかと、さらに悩んだ。