「キレイな夜景ですね。地元の夜空に勝るものはないって思ってたけど、負けてません」
バルコニーに面したガラス窓から見える夜景に、芹花は感嘆の声をあげた。
悠生の部屋は三階だが、山手に立っているおかげでバルコニーの向こうには色とりどりの光が輝く夜景が見える。
右手には紺色の闇が広がっているが、そう言えば海が近かったなと芹花は思い出した。
「実家?」
隣に並んだ悠生に、芹花はドキリとした。
コートを脱ぎ、ネクタイを外した横顔は穏やかだ。
突然悠生の自宅に連れて来られ、部屋に入った時にはかなり緊張していたが、リビングに大好きな画家の絵がかけられているのを見て、不思議と落ち着いた。
「地元にはマンションなんて数えるくらいしかないし、農地が広がっている中に、大きな工場がいくつかあるだけの町だけど、夜空だけはキレイなんです」
「そうか。ここから星は見えないな。街の灯りが邪魔してるんだろうな」
二人は空を見上げるが、灰色の空が広がるだけで星は見えない。
「雲がかかってるんだな。芹花の地元には敵わないだろうけど、晴れた夜にでもまた見に来たらいい」
芹花は悠生を見上げた。
この家にまた来てもいいということだろうか、それとも社交辞令かと、考える。
「じゃあ、私の地元にも、来ますか? 時期によっては口を開けたら星を食べられそうな、のどかな町だけど」
おどけたように芹花は笑った。
「いいな、それ。旅行もそれほどしたことないし、星を見上げるなんて、楽しみだな」
「え……?」
まさか悠生がOKするとは思っていなかった。
「あの、私の地元で、実家があって、家族もいますけど」
それをちゃんとわかっているのかと、言外で問いかける。

