極上御曹司に求愛されています


「一発クリアとは言ったけど」
 
芹花は、まさか今日、クリアすることになるとは思わなかった。
食事を終えたあと、悠生は躊躇する芹花に構うことなくタクシーに乗り込むと、自宅の住所を告げた。
その地名を聞いた途端、芹花は不安を覚えた。
全国的に高級住宅地として知られ、大手企業の経営者や政治家、有名芸能人らが居を構える場所だ。
わかっていたが、悠生が御曹司だと実感し、芹花の鼓動はいっそう速くなった。
そして十五分後、タクシーは閑静な住宅街の中に建つマンションの下に停まった。
マンションというよりも高級感溢れるハイツと言ったほうがしっくりくる低層の建物だ。
照明の明るさを頼りにじっくり見ても、ゴールがどこだかわからないほど広い敷地に立つ三階建て。
石造りの外観は重厚で簡単には侵入を許さない排他的な雰囲気に満ちていた。

「どう見てもご立派……」
 
芹花はマンションを見上げ、場違いな場所に連れて来られたなと呆然とした。
「さっさと行くぞ」
「え、でも、やっぱり帰ろうかな、もう遅いし」
 
しどろもどろに呟く芹花の手を掴み、悠生はマンションに向かって歩き出した。