極上御曹司に求愛されています


これまで何枚も写真を送っている。
今更一枚や二枚増えても状況は変わらない。
もしも写真がマスコミに漏れたら大変だが、気軽に綾子に写真を送る悠生を見れば、悩むほどのことではないのかと、気が抜けてしまう。
芹花は悠生にしがみついていた体を起こし、食べごろの鶏を食べようと箸を手にした。
追加の肉も届き、悠生が芹花の目の前に置いた。

「存分に食べていいぞ」
「悠生さんは、食べないの?」
「ああ。芹花が上機嫌で食べるかわいい顔を見てるだけでいい」
「は……また、そんなことを」
 
軽い口調で芹花の心に重く響く甘い言葉を口にする悠生に、どう応えればいいのかと、芹花は黙り込む。
楓と付き合っていたと聞いて以来、芹花は彼女のことが気になりもやもやしていた。
すでに終わった恋愛だ、今さら悠生の過去を掘り返すつもりはないが、胸に広がる思いをどう昇華すればいいのかと考えていた。
けれど、芹花との写真を楽し気に撮っては綾子に送る姿を見れば、悩む必要はないのかと、脱力する。
おまけに、会えば芹花を期待させるような言葉を口にし、綾子に送る写真を撮るのも忘れない。

「綾子さんから返事が来たけど。くくっ、期待を裏切らない返事だな」
「え? 相変わらず早い」
 
悠生意味ありげにはスマホの画面を芹花に見せた。

「ん? えっと、食べてる写真が多くて新鮮味に欠けます。地元の友達に見せても単なる食べ歩き友達と思われそうなので、別のシチュエーションの写真が欲しいです。提案ですが、夜景がキレイな場所とかどちらかの部屋とか。これぞ御曹司の恋人っていう写真があれば満点です……はあ?」
 
綾子からのメッセージに、芹花は呆れて言葉を失った。
別のシチュエーションだのこれぞ御曹司の恋人だの言われても、芹花にはこれ以上の写真が必要だとは思えない。

「こんなの気にしないでください。悠生さんは十分すぎるほど協力してくれてるし、こうなったらちゃんと本当のことを綾子に言って、悠生さんを困らせないように釘を刺しておきます」
「なんで? そんな必要ないけど」
 
悠生は即座に反論する。

「それに、綾子さんの提案なら一発でクリアできるし」
 
お猪口に残っていたお酒を飲み干しあっさりとそう言った悠生の顔を、芹花はまじまじと見る。

「一発クリア?」
「そう。今すぐにでも」
 
芹花はニヤリと笑った悠生に不安を覚えた。

「いえ、別に大丈夫です。お気遣いなく……」
 
芹花は悠生がどんなシチュエーションを思いついたのか気になったが、その気持ちを隠すように、箸を動かした。