「これから期待される三十代なんて、すごいですね。写真もこんなに大きくて格好いい」
新聞を広げた芹花は、銀行のロビーにすっと立っている悠生の写真を眺めた。
写真でも長身でスタイルがいいとわかる悠生の立ち姿は目を引き、カメラを睨むような表情はとても凛々しい。
記事には仕事への思いやいずれ木島グループの経営本体に入り、社長に就任予定の兄のサポートをすることが書かれていた。
新聞だということもあり、購買層が女性である雑誌やテレビの取材でよく聞かれる恋愛観などは一切触れられていなかったが、これは慧太も同様だ。
世間の女性が知りたいだろう情報は一切なく、恋人の有無を連想させるものもまったく書かれていない。
「慧太先生も載ってるので事務所のみんなで新聞を見ていたんですけど、慧太先生派と悠生さん派に分かれて大変だったんです」
「は? 俺派?」
予想外の芹花の言葉に、悠生はむせそうになった。
芹花は手元に置いていたハンカチを悠生に手渡しながら、肩を揺らし笑った。
「そうです。慧太先生はあの見た目だし、事務所内でも女性人気は高いんです。まあ、アイドルを応援するファンのようなものですけど。でも、今回慧太先生の隣に写る悠生さんが素敵だって、慧太先生から鞍替えする女性が続出したんです」
芹花はからかうような視線を悠生に向けるが、悠生は「ふーん」とひと言呟き手酌で酒を飲んでいる。
「あ、もしかしたら、銀行にファンレターとか来てるんじゃないですか? この新聞が出てから慧太先生にもたくさん届いてるんですよね」
芹花は手紙の仕訳に時間を割いていたここ数日を思い返した。
「うちは法律事務所で芸能事務所じゃないんだぞっていうのが、事務所内の挨拶になってます」
多少落ち着いてきた今は笑って話せるが、ただでさえ忙しいというのに面倒な仕事が増え、事務所内はかなり慌ただしかった。
「慧太先生にファンが多いのはわかってたんですけど、全国紙の新聞の力ってすごいですよね」
忙しいと言いながらもそれを楽しんでいるように話す芹花を見つめていた悠生は、「かわいいな」と呟きすっと手を伸ばした。

