そんな心配は不要だとばかりに答える悠生の言葉が嬉しくて、それ以上強く言えない自分が情けなくもある。
芹花はやっぱり悠生が好きだと思いながらも、その思いを隠すように箸を動かした。
カウンター席に並んで座る二人の間には、ぐつぐつとおいしそうな音をたてている鍋があり、食べ始めて三十分ほどだが、すでに小ぶりの徳利が何本か空になっている。
悠生は鍋から肉を取ると、当然のように芹花の碗に置いた。

「ありがとう。でも、自分で取るので、悠生さんは気にせず食べてください」
「大したことじゃないから別にいい。あ、肉の追加をするか?」
「え、いいんですか? だったら是非。……あ、いえ、あの、悠生さんが食べたかったらで、いいです」
 
大好きな肉の追加に一瞬弾んだ声を上げた芹花だが、さっき一度追加していることを思い出し、慌てて断った。

「まだまだ食べられるだろう? 芹花ならあと五回くらい追加しても完食できると思うけど」
「え、さすがに私でも五回は無理ですよ。でも、三回くらいなら……」
 
照れながらも箸を休めない芹花に苦笑し、悠生は肉を三人前追加した。
悠生が冬になるとよく来るというこの店は、おいしい水炊きで知られていて、芹花も何度か来たことがある。

「だけど、資格試験を受けていたなんて知らなかったな。転職を考えてるのか?」
「まさか。それはまったく考えてなくて。ただ、今の仕事に就いてから自分の知らないことばかりだったから、勉強しようと思ったんです。悠生さんと会ったのは試験も終わってホッとしていた頃でした」
 
ホッとすると言いながらも、十月に試験を終えたあとはイラスト集の準備で猛烈に忙しかった。
そのイラスト集もあと十日で発売だ。
楓のオビのコメントは出版社でも評判がよく、芹花も発売を楽しみにしている。

「あ、そういえばこれ」
 
芹花は箸を置くと、傍らのカバンから丁寧にたたまれた新聞を取り出した。
それは、最近悠生が取材を受けた記事が載っている新聞だが、悠生だけでなく、慧太も取材を受けたこともあり、事務所に十部送られてきていた。

「悠生さんの記事、熟読しましたよ」
 
芹花は新聞を手に、ふふっと肩をすくめた。