けれど、本当に愛されているわけではないと、わかっている。
芹花は唇をかみしめ、手の中にあるスマホを見つめる。
悠生が芹花のスマホを壊してしまったのがきっかけで、二人で会うようになったが、会うたび悠生に惹かれた。
けれど、悠生は芹花とは別の世界で生きている、有名企業の御曹司だ。
好きになるわけにはいかないと、出会った瞬間に自分の心を閉ざした。
好きになってもうまくいくわけがない。
もう傷つきたくないと、自分を守るために壁を作った。
そうやって、悠生のどんな甘い言葉も信じないよう、踏ん張ってきたけれど。
好きになってしまった。
多分、出会ってすぐに、好きになっていた。

『今から迎えに行こうか? 今日は飲んでないから、車も出せる』
 
とことん芹花を甘やかす言葉に、芹花は泣きそうになった。
どうしてそこまでしてくれるのかわからない。
それでいて、嬉しくてたまらない。

「いいです。ちゃんと送ってもらいますから」
『それも、俺はいい気分じゃないんだよな』
 
慌てて断る芹花に、悠生は不満げな声を上げた。

『上司がいるならまあ、安心だけど。次は迎えに行くから、ちゃんと連絡してくれ』
 
楓にも、こんなに優しい言葉をかけていたのだろうか。
そう考えてすぐ、芹花はぶんぶんと首を振る。
そして、気分を切り替えるように明るい表情を作った。

「あの、悠生さんが楓さんと歩いていた時、誰もが楓さんの美しさに振り返ったって言ってましたよね」
『あ、ああ』
 
悠生は突然話題が変わったことに戸惑い、口ごもる。

「私、それだけじゃないと思うんです」
 
悠生の反応を無視し、芹花は言葉を続けた。

「二度見されたり振り返られたりするのは、楓さんだけではなかったはずですよ。格好いい悠生さんが気になって振り返る人も多かったと思うんです」
『……芹花? なんのことだ?』
 
悠生は芹花の言葉の意味がわからず、まごついた。

「ううん、何でもないです。ただ、悠生さんも誰もが振り返るくらい格好いいってことです」
 
悠生は格好いいだけでなく、誰もが羨むほどの家に生まれた御曹司。
そして楓は、見た目が抜群なのはもちろん、努力を重ね、モデル界の頂点まで近い場所にいる。
容姿も立場も極上だという共通点。
二人はよく似ている。
二人が並べば人目を引き、誰がどう見てもお似合いだったはずだ。
芹花はそんな思いを振り切るように首を振った。
二人はお似合いだと、そう言ってからかうことができないほど、芹花は悠生に惹かれていた。