「こんばんは。あの、なにか」
芹花は悠生が楓と付き合っていたことが気になって仕方がなかったのだが、そんな気持ちを見透かされないよう、軽やかな口調で電話に出た。
『いや、なにってわけでもないんだけど。まあ、確認? 楓と会ったって?』
化粧室の近くに幾つかの椅子が並んでいて、芹花はそこに腰かけた。
「はい、ついさっき、お会いしましたけど」
悠生の言葉に、芹花は眉を寄せた。
芹花と楓が会ってから、まだ三時間ほどしか経っていないのに、悠生はもうそのことを知っている。
きっと楓から連絡が入ったのだろうと思い、芹花は切なくなった。
悠生が楓と以前付き合っていたと知ってただでさえ動揺しているのに、今でも変わらず連絡を取り合う仲だと暗に知らされれば当然だ。
『楓がイラスト集のオビのコメントを考えるって張り切ってたけど、そうなのか?』
「ありがたいことに、そうなんです」
楓はいくつものキャッチコピーとコメントを考えていた。
そのどれもが芹花の心に響くもので、本当にイラストを何度も眺め、楽しんでくれているのだと感動した。
『話題のモデルとイラスト集だから、大ヒットは間違いないな。海外で仕事があるからって出発前に慌ただしく電話をもらったけど、芹花に会えてかなり喜んでた』
「私も会えて嬉しかったです。楓さん、本当にキレイで見とれました。一緒にいた所長も同期の男子もその美しさに見とれて。今も二人は楓さんのことで盛り上がってますよ」
芹花は悠生と楓の関係を気にしているのを悟られないよう、明るい声でそう言った。
そして、以前付き合っていた二人のことを、あれこれ詮索する権利もないと、自分に言い聞かせる。
自然な口調だったと思うが、悠生からはなんの言葉は返ってこない。
「悠生さん? 聞いてます?」
芹花はどうしたのだろうかと呼びかけた。すると、スマホ越しにでも不機嫌だとわかる声が聞こえた。
『同期の男子?』
「え、そうですけど? 広報の仕事をしてる同期の橋口くんです。今日楓さんを訪ねることになって、大喜びで。大切な仕事だってこと、忘れるほど楓さんに目が釘付けでした。でも、そろそろお開きにしてもらわないと、明日も仕事だから」

