すると、楓がいたずらっぽく笑った。
「今は有名モデルだけど、近い将来、有名イラスト作家さんを応援する壮年モデルっていう肩書に代わってるかもしれないわよ」
「有名イラスト作家って、それは」
「うん、天羽芹花さん。今は顔も名前も非公開だけど、そのうちきっと世の中みんなが知る事になるんじゃない? あ、その時はもしかしたら、木島芹花なのかしら? それにしても、あの素敵なイラストの作者さんが悠生の恋人だなんて、びっくり」
両手を頬に当てた楓は「きゃー、悠生をからかうのが楽しみ」と言いながら体を揺らし笑う。
自分の思いつきがよっぽど楽しいのか、ぐふふとモデルらしくない声も聞こえる。
「木島って……それはありません。悠生さんと私は別にそんな関係ではなくて」
芹花は、真っ赤な顔で反論する。
「照れなくていいのに。だって、アマザンのブライダルフェアに行ってたでしょう? 模擬挙式で新婦役をやっていたモデルは私と同じ事務所の後輩だから、遠目に見てたのよ。もちろん、おいしそうにお料理を食べてる悠生と芹花さんも確認済み」
ニッコリ笑う楓に、芹花は反論できず口ごもった。
「なあ、天羽って実は恋人がいたのか? それも木島とか悠生とか言われてるけど、もしかしたら木島グループの木島悠生のことか?」
いつになく戸惑った声で橋口が問いかける。
芹花はそれは当然だと思うと同時にここで頷くべきなのかどうか困った。
安易に悠生のことを口にすれば、彼に迷惑がかかるかもしれない。
マスコミからの注目を浴びる悠生の名前を軽々しく出すわけにはいかないのだ。
瞳を揺らし、どう答えようかと悩む芹花に、楓が再び口を開く。
「だけど悠生って変わったわよね。私と付き合ってた時はお兄さんに負けたくなかったのかストイックで仕事ばかりでつまんなかったけど、今では恋人とブライダルフェアだもん。時の流れを感じるわ」
おどけて笑う楓に、少し間を置いて芹花は反応した。
「付き合ってた?」

