「ここで一枚撮る?」
「え、写真、ですか?」

悠生は内ポケットからスマホを取りだした。

「ライトアップされた噴水をバックに撮れば、綾子さんも大喜びするだろう?」

悠生はいい考えを思いついたとばかりにそう言って、芹花の肩を抱き寄せた。
芹花は促されるまま隣に立ち、目の前のスマホを見つめた。

「さっき撮って送った写真だけでも今日来た目的は達成したけど、ここで撮らないのはもったいないだろ? 恋人同士なら絶対に撮りそうな絶好のスポットだもんな」
「目的を達成?」
 
背後を見れば、ライトアップされた噴水が、リズムをとるように踊っている。
水しぶきが照明の効果で艶やかに弾けている。
芹花はしばらくの間その輝きを見つめた。
きゅっと引き締めた唇は、微かに震えている。

「そうですね……。絶好のスポット」
 
芹花は体を悠生のスマホに向けながら、なにかを振り切るように小さな笑顔を浮かべた。

「綾子もきっと喜びますね」

 スマホに視線を向けたまま、芹花は明るくそう言った。

「芹花? どうかしたのか?」
 
どこかぎこちない芹花の様子に気づいた悠生は、スマホを持っていた手をおろして芹花の顔を覗き込んだ。
食事の最中も、その後二人で手をつなぎ歩いていた時にも絶えず浮かべていた明るい表情が消えていた。
口元に笑みを浮かべ、何でもないようなそぶりを見せているが、さっきまでとはどこか違う。

「体調でも悪いのか? だったら早く帰ろう」
「大丈夫です。えっと、ちょっと……食べ過ぎたかも」
 
芹花はへへっと笑って肩をすくめた。

「食べ過ぎって、たしかに結構食べてたけど」
 
悠生は納得できないように眉を寄せるが、早く写真を撮ろうと急かす芹花の声に促され、再びスマホを構えた。
そして、芹花の頭に手を回し引き寄せると、そのまま芹花の頬に手を滑らせた。

「熱はないな」
「だ、大丈夫です」
 
突然頬を撫でられた芹花は驚き、声も裏返った。

「体調が悪くなければいいけど、まさかブライダルフェアの魔法にかかって夢でも見てるのか?」
 
わざとからかうような悠生に芹花を気遣う優しさを感じ、芹花は肩をすくめた。

「夢にしてはおいしすぎる料理ばかりでしたよね」
「よっぽど料理が気に入ったんだな。近いうちに、また連れて来てやるよ。じゃあ、撮るぞ」
 
芹花の笑顔に安心したのか、悠生はホッとしたようにさらに芹花を引き寄せ写真を撮る。
二人はスマホの画面を確認する。
窓越しに見える彩り鮮やかに照らされた噴水を背景に、頬寄せ合う悠生と芹花。

「……いい写真だな。芹花、お前かわいいな」
 
耳元に悠生の低い声が響く。
近い距離のままその声を聞いていると、それが悠生の本心ではないかと錯覚しそうになる。

「芹花、照れてる?」