「三つ子の魂百までってこのことだ。大人になっても弱気な自分はなかなか変えられないんだもん」
小さくため息を吐き、芹花は事務所を後にした。
久しぶりに早い時間に仕事を終えた芹花は、夕食は何を作ろうかと考えながら駅に向かう。
既に十七時を過ぎて日が落ちた大通りは、木々に施されたイルミネーションが輝いている。
その光を楽しみながらゆっくりと歩いていると、芹花の傍らに車が停まり、助手席の窓がすっと降りた。
驚いた芹花は警戒しながら視線を向けた。
すると、運転席から身を乗り出すようにして助手席の窓から顔を出す悠生の姿があった。
「え、悠生さん? どうしたんですか?」
芹花は悠生が運転する車に駆け寄った。
「さっきメッセージを入れたんだけど、見てないのか?」
「メッセージ? あ、ごめんなさい。見てなくて」
芹花は慌てて鞄からスマホを取りだそうとするが、悠生はそれを制した。
「とりあえず乗って。長くここに停めているわけにはいかないから」
「あ、でも。あの」
突然そう言われ、芹花は躊躇したが、大通りには多くの車が走っている。
急かされるまま助手席に乗り込んだ。
芹花が乗り込んだと同時に車は走り出し、大通りを進んだ。
「あの、どこに向かっているんですか?」
シートベルトを着けた芹花の問いに、悠生はニヤリと笑った。
「おいしい夕食を食べようと思ってるんだ。それもかなり極上の」
「極上? って、高級店ですか? 私、こんな服ですけど」
不安気な芹花を見ることなく、悠生は「十分かわいいから大丈夫」とさらりと口にする。
かわいいなどと言われ慣れていない芹花は口ごもり、膝の上に置いた両手を握りしめた。
ベージュのフレアスカートとオフホワイトのニットアンサンブル。
手にしたコートはアンクルブーツと同じダークブランだ。
アクセサリーはなにひとつ身に着けていないあっさりとした今の自分の姿が高級店にふさわしいとは思わない。

