「うわっ、冷てー!」

暑くて海に入ったはずなのに、波が来て足首まで水に浸かると冷たいと叫ぶ。

すると近くにいた小学生くらいの子どもに話しかけられて、突然波打ち際での追いかけっこが始まった。

そこにいるだけで子どもを引き付けてしまう。

イチくんってやっぱり不思議な人だ。

一生懸命イチくんを追いかける子どもたちが走る度に、水しぶきが輝く。

私は夢中でシャッターを切っていた。

ふとファインダー越しにイチくんと目が合う。

その瞬間、イチくんがこちらを見てふわりと笑った気がして、驚いてカメラを下げると、こちらに近付いてきたイチくんにカメラを取り上げられて。

「みあももっと夢中になればいいよ」

「え?」

イチくんの言葉の意味を考える。

でもそんな隙も与えてはくれず、急に膝をすくわれて強制的に砂浜に私を座らせるイチくん。

一体、何を……?

「ほら、みあも脱いだ脱いだ」

「ちょ、ちょっとイチくん……!」

するすると器用にサンダルを脱がされて、気付けば私も海へ押し出されていた。

「つ、冷た……!」

「おい、今度はこのねーちゃんも混ざるって」

「い、イチくん。私そんなこと言ってな……」

最後まで言う間もなく、嬉しそうな声を出して私を追いかけてくる子どもたち。

ちょっと待って、それ、水かけようとしてない……?

私、着替え持って来てないんだけど!

そんな大人の理由なんて露ほども知らず、問答無用で私を標的にする子どもたちから必死に逃げた。