グラウンドを抜けようとした時、後ろから「危ない!」と声が聞こえた気がして振り返った。

すると空高くに跳ね上がった野球ボールらしき物が飛んできていたのが一瞬目に映った気がして、咄嗟に私は背中を向けて目を固く閉じた。

覚悟した痛みの代わりに届いたのは野球ボール……ではなくて。

「アホか!」

間近に聞こえたイチくんの怒鳴り声。


ボールが当たる寸前の所でイチくんが自分に引き寄せてくれたおかげで、私はどこも無傷で済んだ。

ボールを追いかけてきた野球部の人が「すいません!」と帽子を脱いで一礼するのが、イチくんの肩の向こうに見えて、私は小さく頷いた。

「なんで避けないんだよ!」

「あ、カメラ守るのに精一杯で……」

だってこれは、イチくんが大切にしているカメラだから。
それを預かった私には、守る責任があるわけで。

「あっ、カメラ……!大丈夫かな」

強く握りしめた反動でどこか壊してしまったりしていないだろうか。

身体を離してカメラの状態を確認しようとしたけれど、すぐにまた引き寄せられてそれは叶わなかった。

ぎゅっと私の無事を確認するように、イチくんの手がさっきよりも優しく背中に回る。

「イチくん、カメラ……」

「そんなの後でいいよ」

イチくんは私を抱き寄せながら頭の上に顎を置いたと思えば、大きく息を吐いて項垂れた。