教室に着いてから文化祭が始まる時間がくるまではあっという間だった。

気軽に食べられるたこせんべいは大人気で、中でも目玉焼きを挟んだメニューがよく売れていた。

ホットプレートの上でジュージューと美味しそうな音を立てながら、たくさんの目玉焼きが焼けていく。

せんべいにソースを塗っていると、苑実が隣から肘をつついて話しかけてきた。

「ねえ見て、あの人めっちゃかっこよくない?」

「え、どの人?」

「ほら今お会計の前にいる人」

言われた通りにそちらに目を向けてみると、他校の制服を来た男の子が何人か立っていて、その中でも細身で髪を茶色に染めている人が苑実のタイプだと言う。

言われてみればたしかにキレイな顔をしているけれど、そう思っていたら次にやってきた人にも同じようなことを言っている苑実に私は首を傾げた。

「苑実はかっこいい人が好きなの?」

「好きっていうか、まあ好きだけどさ」

「じゃあ話しかけに行ってみる?」

そう訊ねてみれば、「え」と苑実は手の動きを止めて笑った顔のまま固まってしまった。

「や、無理無理!あ、朝あたしが言ったのか。あれ冗談だよ。知らない男の子に自分から話しかけるのとか緊張するし」

「苑実でもそんな風に思うことがあるんだね」

「あるある。普通にあるよ」

再び手を動かし始めた苑実は苦笑いした。

「あたし、好きな人とか出来たことないんだよね。興味なかったっていうか。いいなって思う人はいてもそれ以上どうなるとかないし」