声が近くなっていくにつれて、心臓のドキドキが大きくなっていく。

下駄箱からそっと廊下を覗いてみると、思い浮かべた通りの2人が向こうから歩いて来ていて、物陰にしゃがみ込んでそっと身を隠した。

どうして隠れる必要があったんだろう。

隠れながらそう思ったけれど、上手く身体が動いてくれなかった。

「……言ってねーし、そんなこと」

隣を歩く橋本さんが拗ねて膨れたような声を出すのに、イチくんは宥めもせずに冷たい言葉を返す。

「あたし結構楽しみにしてたのに」

「つか、お前関係ないくせに、こんなとこまでついて来んなって」

会話の意味までは分からないけれど、傍にいる橋本さんをイチくんは鬱陶しがっているように見えた。

ケンカでもしているのだろうか。
昨日は手を繋いで、幸せそうに歩いていたのに。

なんて、私がこんな心配したって仕方がないのだけれど。

お喋りをしながら、2人は私に気付かず真横を通り過ぎていった。

久しぶりに近くで見たイチくんの横顔。

それだけで頬がほんのりと熱を帯びている。

好きな気持ちって、すぐには消えないんだ……。

いつになったら、何とも思わなくなるんだろう。

大蔵のことを大切にしたいと思うのに、イチくんを見るたびにこんな風になってしまっていては、ますます彼を不安にさせてしまうのに。

頭では分かっている。
それなのに、心はなかなか言うことを聞いてくれない。

感情のコントロールって、こんなに難しかったっけ?