イチくんの声に顔を上げる。

部室のドアの前にはカメラを首から下げたイチくんが準備万端で私を待ってくれていた。

というより、名前……。

あっさり下の名前で呼んじゃうんだ。

私もイチくんを名前で呼んでいるから同じなんだけど、部の人たちもそうやって呼んでいるし。

私がイチくんに下の名前で呼ばれるのって、なんか、変な感じだ。


急にイチくんの顔が見られなくなって、下を向きながらドアの方に向かう。

「みあ?」

同じ部に入るんだもん。
男の子に名前で呼ばれるのくらい、慣れないと……。

そう思っていると、上からイチくんの笑い声が降ってきて。

「ぼーっとしてたら置いてっちゃうよ」

ポンポンーー、
イチくんに頭を撫でられた。

「……!」

突然の出来事に、俯いた顔が上げられない。

視界からイチくんの足が消えて、廊下を歩いていく足音が聞こえる。

私は下を向いたまま、黙ってその足音に着いて行った。