『あっそ』って…やっぱり素っ気ない。さっきまでの優越感なんて諸々全部なかったことになって、ちょっとだけ寂しくなった。

そんな私に気づいてない相楽くんは、「いいですよ」と返事をしていて、私も同調するために頷いた。


「ありがとう。助かるよ」


篠田さんはうれしそうにそう言って、「今月の給料、おまけしておくね」といたずらっぽく口元を緩ませた。それに喜んだ私を笑った相楽くんは、すぐに外に出てしまった。

ああ、でも。
彼の首元には、私がさっきまで巻いていた白いマフラーがある。

嫌そうだったのに、それさえも受け入れてくれる。

なんだろ。胸の奥がぎゅって苦しい、そのくせじんわりと温かい。相楽くんとバイトが同じっていうだけで、ただそれだけの他人なのに。

私だけ、相楽くんの一挙一動に心を踊らせて。
彼のことばかり考えてしまって、彼に風邪をひかせたくないって思って、彼がいまなにを見ているのか気になって。

そんなこと思うのが、すごく悔しい。


「篠田さん、」

「なんだい?光川さん」

「私、変なんです、最近」

「え?」


私はくるっと振り返って、篠田さんを見つめた。


「悔しくてたまらないんです。相楽くんのせいで」

「相楽くんのせい?」

「だって篠田さん、相楽くんってすごくないですか?」

「え、……え?」

「かっこよくて、女の子にモテモテで、なんでもそつなくできて。私、相楽くんのこと、いつも余裕ある理想の大人って思ってるんです。同じ歳だけど」