「さむいから、相楽くんにあげるね」

「意味わかんないんだけど」

「私は平熱高いもん。だから平気」

「そういう問題じゃないよ」

「だめ」


無理矢理彼の手に掴ませたマフラーから手を離すと、相楽くんはすこしだけ眉を顰めていた。なんだかそれがとても、私を切なくさせる。


「風邪、ひいてほしくないから」

「みっちゃんもでしょ」

「でも私、超健康体だから」

「女の子でしょ」


相楽くんの言葉に、とてつもない優越感が胸をよぎって。私は彼に笑った。意味なんてわからないけど、たぶん、女の子扱いが私には柄じゃないんだと思う。

相楽くんは誰が見ても端正でキレイなひとだ。周りの羨望や好意を集める彼に女の子扱いされるのは、とても贅沢なことで。

だからこそ、私は、ときどき胸がドキドキとうるさくなる。

全部の音が消えちゃうんじゃないかってくらい、心臓の鼓動がうるさくなる。

それが全部、全部、悔しいなって。優越感に競り合うレベルで大きさを増していくんだ。


「だいじょーぶだよ、私は」

「…ちょっと、みっちゃん、」


うれしいのか悔しいのか曖昧な気持ちが滲むから。私は渋る彼に笑顔を見せて、篠田さんの元に急ぐ。