ありふれたことだと思う。
よく知りもしない誰かに笑顔を見せるなんて。

だけど、どうしてきみは。


「風邪、ひいてほしくないから」


他人の俺に、そんなにまっすぐな笑顔を向けることができるの。


「みっちゃんもでしょ」


そう言うと彼女はうれしそうに微笑んで、澄んだ瞳に俺を映す。たぶんどの女の子よりも、彼女はまっすぐで、すごく優しい。そう思うには時間はかからなかった。

初めて出会ったときから、ずっと。

彼女は笑顔しか見せないくせに、俺の心配ばっかりしていた。そんな彼女がおもしろくて笑うと、なぜかすごく驚いていて、そのあととてもうれしそうに顔を覗き込んできた。

そんな彼女だから。どうしても欲しくなって。
手を伸ばしたかったけど、躊躇って。

本当はずっと、ずっと、みっちゃんが欲しかった。


「ね、相楽くん。イルミネーション」


バイト終わりに俺の手を引いて微笑む彼女は、俺の気も知らないで屈託ない表情ではしゃいでいる。

イルミネーションで飾られた街をそう綺麗と思えない。だけど彼女がいると明るく見えた。


「みっちゃん、こっち来て」

「うん?」