何度か角を曲がり、坂を駆けて、たどり着いたのはモノトーンでまとめられた外見の大きな一軒家だった。その場に崩れ落ちそうになるくらい疲れたし、何回か道に迷ったけど、確かに相楽くんの家だ。

表札の『相楽』という文字を確認して、チャイムを押す。誰か出てくる前に前髪を軽く整えて深呼吸をする。胸の奥がいっぱいで、不思議と鼓動が早くなる。

緊張、してるのかな、私。


『はい、相楽です』


すぐに聞こえたその声は、聞き間違えることなんてできない。相楽くんの声だった。


「わ、私、光川です!相楽くんにすこし用があって、」

『みっちゃん?』


早口で名乗ると、相楽くんの声がそう言って、私は首を縦に振り頷いた。


『ちょっと待ってて』


いつもみたいに素っ気ない返事じゃなくて、どこか柔らかな色を帯びていた彼の声。相楽くんが言った“ちょっと”は、本当にほんの少しの時間だった。玄関のドアが開いて、彼は慌てた表情で私を見る。


「みっちゃん」

「相楽くんっ、」

「どうしたの?まだバイトの時間じゃないよね?なんかあったの」

「あ、それは」


早口で言いながら近づいてくる相楽くんの表情は、やっぱり慌てていた。もしかして、私になにかあったと思って心配してくれているの?

クールな無表情とは裏腹の困惑した表情が、目前に近づく。