バイト先は、結構家の近くだ。全速力で走ると約20分ほどで到着する。開店時間より1時間も早いのに、私は体育祭の短距離よりも猛スピードで登り坂を駆け上がる。
悩んでたのがバカみたいだった。さっき弟に言ってみせたたったひとつの言葉。それが私の気持ちじゃんって、一番に認めているのは私自身で。考えることは大切だけど、勢いと素直さも大切だよねって、どっかの詩人が言ってそうな言葉をすこしだけ信じてみたい。
きっと、それでいいと思うんだ。
「篠田さんっ!!」
―――ガチャ
『準備中』というプレートがかかった店のドアを勢いよく押す。いつもは静かに音色を響かせるベルが大きい音を響かせて、店の奥にいるだろう篠田さんの名前を大声で呼んだ。
すると足音が聞こえて、篠田さんが慌てた表情を浮かべたまま飛び出てきた。いつもの穏やかな笑顔がとても焦っていて、すこし意外な気分になる。
「み、光川さん?まだ開店時間じゃないけどどうかし、」
「あの!相楽くんはまだ来てませんか?!」
「相楽くん?まだ来てませんよ?」
やっぱり早すぎたかな。
先走る気持ちが私を落ち着かせないけど、それより早く相楽くんに会いたくて、会いたくて。自己満足でもいいから、私の気持ちを全部全部伝えたいって思った。
不思議そうな表情で私を見つめていた篠田さんは、すこしだけ考える仕草をしたあとに、そっと微笑みを浮かべた。
「光川さんは、相楽くんのことが好きなんですね」
私が、相楽くんを?



