2年前の事故によって記憶が長くもたない。

完全に記憶が消えてしまうまで残り1年しかない。

毎日忘れてしまうのが怖くて、忘れてしまっていると感じたくなくて、日記をつけた。



日記の1ページ目は、
『私の名前は川野 優姫(かわの ゆうひ)』
そんなことを書いた。

いつか自分のことも大切な人達も忘れてしまうなんて考えたくもないけれど。

自分が誰かも分からないまま生きていくなんてのは嫌だった。

少しでも今できることをと考えながら生きている自分が高校2年生なんてことに一瞬気づかない。

自分の記憶は長くもたず、いつかはすっきり真っ白に消えてしまうことは家族以外知らない。

クラスメイトにも親友にも誰にも言っていない。

いつかは言わなきゃとは思っているけれど、今はいいやと思って言っていないのだ。

なんてことは本当だけどちょっぴり違う。

本当の本当は、クラスメイトや親友といる時くらい自分が記憶喪失なことを忘れていたい。

自覚して過ごしていく勇気は私にはまだない。

忘れてしまいたくない記憶はすべて日記に記している。

楽しかった学校行事の時の話や、友達とのこと……そしてあの人のこと。