「ちょっと良い?」と

部屋に入るようだ。

男が苦手で、仲良くなっても二人きりになることはなかったのに……

緊張してイスに足をぶつけながら「どうぞ、どうぞ。」と促す。

部屋飾りを外した殺風景な教室が、一気に華やいだ。

イスに腰掛けた唯ちゃんが…………

「あのね…………ごめんなさい。
私、人との関わりが苦手で……………距離感が掴めなくて………。
やっと男の航先生と話せるようになったのに………
ちょっとしたことでまた話せなくなって……………。
感じ悪いよね?って思うと、益々声が出なくなったの。
海晴ちゃんに『意味が分からないままムシされたら
航は悲しいよ』って言われて…………そうだなぁって反省して……………。」

海晴先生が、夏休みに入る前に仲直りのチャンスをくれたのかぁ。

ホントに優しい人だな。

「あっ、それなら僕の方が謝らないと。
話せないきっかけを作ったのは、僕だから。
子供といることに慣れて、濡れてる頭を見てつい拭いちゃいました。
ごめんなさい。
悠人先生にも『女の人ばかりの仕事場だから、気をつけろ!』って
怒られちゃいました。
ホントにごめんなさい。」

「悠人先生が??」

急に嬉しそうに、頬を染める唯ちゃん。

あぁ、悠人先生が好きなんだ。

自分が好きだということも忘れて、可愛いなぁって思ってしまう。

「あのね、これ………作ってみたの。」

差し出されたのは、クッキーだった。

仲直りの品に、わざわざ焼いてくれたのかぁ。

「ありがとうございます。」

可愛い行動に嬉しく思うけど、妹みたいだと感じてる。

あれっ?

片思いしてたのに………。

自分の以外な感情に驚きながらも、有りがたくもらった。