そのあとも彼女には会いに行った。

資料がないと書けない無能な作家に無意識に力を貸してくれる彼女。

「えっと……君の名前が思い出せない……なんだっけ?」

彼女は申し訳なさそうな顔で僕に言う。

「名前なんていいよ。僕は僕、君は君でいいじゃない。」

「それはだめだよ!いくら私の覚えが悪いからって名前は大事にしないと!」

彼女は記憶を失うことに抵抗がない。

最初からなかったと思うくらい自然に抜け落ちるのでなくしたことにすら気が付かない。

可哀想なお姫様。