「千夏ちゃん、今どこにいるの?」

「ええっと、正門近くの楓の並木の辺りですけど」

「俺、D館にいるんだ。ちょっと待ってて。一緒に帰ろう」

「え?」
「帰りに一緒に斎藤のバイト先に行こうよ。あ、これから何か用事ある?」

「いえ、ないですけど」
「じゃあ決定。千夏ちゃん、彼に見つからない場所に隠れてな。今そっちに行くから」
「えええ?あ、山下さん?」

通話はそこで切られてしまい一方的に約束させられてしまったけれど、不思議なことに嫌な感じはしない。
私はおとなしくその場で山下さんを待つことにした。


****


「いらっしゃいま・・せ?」
いきなり現れた私たちを見て恵美さんが驚いた顔で出迎えた。

あれから5分ほどで山下さんがやってきて一緒に恵美さんのアルバイト先のカフェに顔を出したのだ。

「バイト終わったら一緒に帰ろうぜ」
空いている席に向かいながらニコニコ笑顔の山下さんに恵美さんは曖昧な笑顔を浮かべている。

あ、これ、恵美さんに勘違いされてないかな。
山下さんと私が2人きりで一緒にいたらいけなかったんじゃないのだろうか。

「あの、これはですね」
言いかけた私の言葉に「千夏ちゃん、今日は君の話を聞かせて」と山下さんが言葉をかぶせてきた。
いつもと違う強い口調に私も恵美さんも驚きを隠せない。

「プラネタリウムの時もそうだったけど、さっき楓の並木の下にいた千夏ちゃんは酷い顔してた。そろそろ俺と斎藤に話をしてくれてもいい頃だろ。一人で抱え込むなよ。それとも、俺たちじゃ支えにもならないか?」

このタイミングでそんな風に言われて、黙っていられるほど強くない。
初めは半ば強引に知り合いにならされたような山下さんだけど、なんだかんだ言って今は私にとってかなり頼れるお兄さんになっている。山下さんが兄なら恵美さんは姉のような存在だ。

「…ですよね。私も聞いてほしくなってたところです」

「斎藤、バイトもう少しだろ。バイト終ったらここに合流して」
山下さんは恵美さんに仕事に戻るように促した。

「でも」恵美さんが私の顔を見る。
「いいから。注文はタピオカ抹茶ミルクのアイスとカフェモカのホットね」
山下さんに言われて渋々といった感じで恵美さんがオーダーを奥に伝えに行った。

その姿を見送ると「さて」と私に向き直る。
「何も知らない外部の人間に話すことで自分の気持ちとか溜まってたものとか吐き出すだけじゃなくて、客観的に気持ちの整理もできると思うよ」

うん、そうなのかもしれない。
山下さんの言う通り、吐き出すこともしたいけど、混乱した気持ちの整理もしたい。これからも樹先輩と出会ってしまう可能性があるし。

私は大きく頷いた。