「・・・水口と樹はなんで」

「なんで?・・・樹先輩には私より大事な人がいたから。私に割く時間はなかったからですよ」
涙をこらえて微笑んで見せた。

「ね、先輩。もうこれでいいですか?それとこのことは誰にも言わないでもらえませんか。もちろん樹先輩に」
「なんで。樹だってこっちに進学してるし、水口がこっちにいるって知りたいはずだ」

「いいえ。私はそう思いません。もう過去のことだし、今更知ってどうなるんですか。今までもこれからも私と樹先輩の接点はもうないんです。これ以上フラれた私の傷を抉るのはやめてください。お願いです」
あふれ出てくる涙を手のひらでぐいっと拭った。

「ふられたって、嘘だろ?」

「こんな事嘘ついてどうするんですか。私は選ばれなかったんですよ。そういうことです。もうこれでいいですか。ホントに私のことは他言無用で」

私はテーブルに額が付くほど頭を下げる私に京平先輩は大きく息を吸い込むとふうっと吐いた。

「やっぱ部外者の俺にはよくわからない。水口が嘘を言ってるように見えないし」

私は何も嘘をついていない。ギュッと唇を引き締めた。

「水口と急に連絡取れなくなって樹はショックを受けてた。それだけはお前に言っとく。それと、お前が言って欲しくないならこのことは樹には言わないでおく。でも、樹もこの街にいるんだ。偶然会っても俺のせいじゃないからな」

京平先輩は渋々と言った感じだったけれど、今日出会ったことは言わないと約束をしてくれた。

「お前もいろいろ大変だったんだな」

ーーー最後の言葉に私の涙腺は更に緩くなってしまいめそめそと涙を拭っていると、事情を知らないユキや他の参加者から私を泣かしたと誤解された京平先輩が責められちょっとした騒ぎになったのはおまけの話。

結局変な空気にしてしまった私は二次会に行かずに帰ることにしたのだけど、「俺も帰るから送る」と言い張る京平先輩の扱いに困り仕方なく譲歩することにした。

「先輩、おうちどこですか?」
「篠山だけど」
「じゃあ私とは路線が違うからここの最寄りの駅まででいいです」

私の住む街は絶対に知られたくない。