星空電車、恋電車

「本当に久しぶりだな、水口。こんなところで会うとは思ってなかったわ」

「私もです」

「で、なんでいきなりいなくなったんだ。樹にも何も言わなかったんだってな。どういうことだよ。何考えてんだ、お前。何があっても樹には言うべきじゃなかったのか?」

京平先輩は直球できた。

顔を見る勇気はなかった。京平先輩の声は怒気をはらんでいて明らかにかなり怒っている。
それでも私が一方的に悪く言われるのは納得できない。

「・・・何にも知らないくせに」
「は?」

「何にも知らないくせにって言ったんです。京平先輩は私と樹先輩の何を知ってるんですか」
キッと睨んだ。

私の顔に少し怯むと「何って・・・うまくいってたんじゃないのか、お前らいつも仲よさそうだったし」京平先輩の声から怒気が消えた。

「うまくいっていたら、何も言わずに消えたりしませんよ」
皮肉を込めて少し笑った。

え、っと声がして驚いた顔で私の顔を見つめてくる。

「だって、え?嘘だろ?うまくいってなかったって?だって、空いてる時間は二人で会ってたんだろ?だって部活引退しても樹、用事があるってよくいなくなってたし」

「確かにインハイの少し前まではそうでした、ね。でもそのインハイの少し前から先輩の言う”用事”ていうのは私に関するものじゃないですよ」

あの頃を思い出して鼻の奥がツンっと痛くなる。

「は?待って、待て、待て。どういうことなの。何」

「私はこれ以上何も言うつもりはないです。ただ、樹先輩のことに関しては私だけが悪いって言われることにちょっと腹が立っただけで。・・・でも、部活のみんなには、もちろん京平先輩にもですけど、仲良くしてもらっておきながらメール1本しただけで引っ越ししたのは本当に悪いと思っています。・・・でも、あの時は私も追い詰められていて本当に苦しかったんですよ」

京平先輩は黙って聞いてくれている。

「父が転職することになって自宅も売却することになってしまって。卒業までは叔父の家から通うつもりだったんですけど、足を故障してから調子が戻らなくて、ハードルも諦めたし、私にはあの土地にたった一人で残る意味がなかったんです。私だって樹先輩と話をしたいって思ってたことあります。でもあの頃、そんなことするタイミングはありませんでした」