「わかった。今は聞かないよ。
・・・倉本樹は正式にはあのサークルメンバーじゃない。大学もここじゃない。勧誘の時に俺と一緒にいた柴田の幼なじみってことで準メンバーって感じだな。で、何かと倉本君はイベントの時にサポートに駆り出されてる。だから、ここで観測会がある時には倉本君も顔を出す可能性があるよ」

ーーー柴田さんの幼なじみ
その言葉に衝撃を受けた。

また私にとってのパワーワード。”幼なじみ”だ。
柴田さんに桜花さんの面影を感じるのはもしかしたら二人は姉妹なのかもしれない。
地元を離れここに来てまでも私はまた二人の姿を見て苦しまないといけないのだろうか。

顔色を失った私に山下さんが焦り始める。
「おい、千夏ちゃん、大丈夫?真っ青だ。そんなに聞きたくない話だった?」

「あ、いえ。教えてもらってよかったです。本当に」
とってつけたようなひきつった笑顔を山下さんに向けているのは自分でもわかる。けれど、今はこれしかできない。

「そんなに顔を合わせたくないのなら、倉本君がここに来るって情報が入った時には必ず千夏ちゃんに教えてあげる。安心して」

「・・・本当ですか?それ、お願いしてもいいですか?」
私は藁にもすがる思いで山下さんを見つめた。

「いいよ。連絡する。そんな顔されたら協力するしかないでしょ」
山下さんは困惑気味しながらも微笑んだ。

「倉本君が何をしたか知らないけど、俺は斎藤が可愛がってる千夏ちゃんの味方だから」
「じゃあ私は恵美さんに感謝ですね」
山下さんの言葉に私は頭を下げた。

それから山下さんは恵美さんの話も樹先輩の話もせず、しばらく学内に関する雑談をして山下さんとカフェの前で別れた。

山下さんは私が初対面で想像したようなアイドルもどきのチャラい人ではないのかもしれない。どうやら見た目がいいことで勝手に私が拒否反応をしていただけかもしれない。
まだよくわからないけれど、少なくとも今日の山下さんの印象は悪くなかった。