”お二人の間に何かあるんですか?”と聞いてみたい気がするけれど、それは自分の首を絞めることにもなりかねない危険な行為だ。

ただ、私からも話をしなければいけないこともある。
でも、どうやって話をしたらいいのかわからない。私はまだ高校を卒業したばかりの子供で2才しか違わないけれど年上の大人の男性と対等に話をするような高等な技術など持っていない。

「俺、千夏ちゃんが嫌がるようなことは言わないし、聞かないから安心して」
不意に山下さんが言った。

顔を上げて山下さんを見ると「倉本樹だろ。千夏ちゃんが逃げた相手」ぽつりと言った。

「やっぱりしっかり見られていたんですね」

持っていたグラスをテーブルに置いてため息をつくと、
「うん、ごめんね?」と少し軽い感じで返事が戻ってくる。

「倉本は俺が見てたことに気が付いていないと思うよ。千夏ちゃんがいやなら俺は誰にも言うつもりはないから」

「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、意を決して私は山下さんの顔を見つめて声を出した。

「樹・・・く、倉本さんは私の昔の知り合いなんですけど・・どこの大学に通ってるんでしょうか?山下さんと同じあのサークルのメンバーなんですか?ここの大学に顔を出すこともあるんでしょうか?」

一気に質問をくり出した私の様子に山下さんは驚いたように目を丸くしている。

「待って。質問には一個づつ答えるけど、先にさ、良かったらだけど、千夏ちゃんと倉本君の関係を聞いてもいい?さっき聞かないって言っといてなんだけど。もしいやだったら言わなくていい。
千夏ちゃん、倉本君から逃げてたよね?逃げたい相手ってことでいい?嫌いなの?」

「嫌いというかーーー」
私は目を伏せた。

嫌いというのとは違う。
「・・・もう二度と会わないと思っていたので・・・」