地元を捨てた私と樹先輩を繋ぐことができる人はごく僅かで、京平先輩を除くと山下さんだけだった。

その山下さんは卒業後大学時代の同級生とはちょっと距離を置いているのだ。

芸能人並みの容姿を持つ山下さんらしいエピソードだけれど、全く笑えない話。
というのも山下さんは大学の同級生、あの柴田さんのお友達の女性に熱烈なアプローチに遭っていて辟易していたからだ。
SNSのメッセージ、電話は毎日。山下さんの恋人の恵美さんに対して嫌がらせをするような人だったから、彼は迷わずごく親しい人以外とは連絡を絶ったと聞いている。

だから樹先輩が山下さんの連絡先を探してもわからなかったのは仕方がないと思う。
柴田さんを含めてサークル関係者で山下さんの連絡先を知っている人はいなかったはずだから。


「ーー実は俺、今東京にいるって電話では言ったけど、ずっと東京にいるってわけじゃないんだ。東京に、いや日本にいるのは1年のうち4ヶ月くらいであとはハイランド教授のお供で海外に行ってる。だからなかなか千夏のことを探し出すことができなかった」

樹先輩の口から語られる話には驚きばかりで目を丸くしていた。

「帰国するたびに千夏がバイトしてたカフェに行ったりしたんだけど、何の情報もつかめなくて。今日会えたのも結局千夏にきっかけを作ってもらったなんてな。ありがとう。会ってくれて」

まさかカフェにまで顔を出してくれていたとは。
私の方は京平先輩の言う事を信じてしまっていて樹先輩は私のことを忘れてしまったと思い込んでいたというのに。