「ごめん、からかったわけじゃないから」

私の心の声が聞こえてしまったのか、樹先輩がちょっと低めのトーンで謝ってきた。

そうここ電車内だし、これ以上踏み込んだ会話は無理だ。
私は小さく頷いて口を閉じることにした。

「ここで会えたから約束してた待ち合わせ場所にはもう行かなくていいよね」

私は何のことかわからなくて首をかしげた。
待ち合わせは三宮駅前だった。

「もともとわかりやすい所で待ち合わせをしたかったからあそこを指定しただけで、合流したら千夏と一緒に行きたいところがあったんだ。だから、今からそこに案内してもいい?」

行きたいところがあったんだ。
もちろん私に断る理由はなかったから軽く頷いて了承した。

「どこに行くんですか?」

「プラネタリウムだよ」

「プラネタリウム?市の施設の?」

「いや、移動式のプラネタリウムなんだ。今ちょうど知人がこの近くで設営していてね。夜の投影前の試写に参加させてもらえることになったんだ。そこに千夏を連れて行きたいと思って」

移動式のプラネタリウムという聞きなれない言葉に再び首をかしげてしまった。
それにそれはどこの誰が主催したものでどんなところで設営されているんだろうか。

「私がお邪魔しても迷惑にならないですか?」

「ああ、大丈夫。今俺が寄り道をしていた所っていうのがその主催者の人のところでね。事前に電話では連絡して了解をとってあったんだけど、直接挨拶に行っておいたから」
楽しんでおいでと言われたよと樹先輩が笑顔で頷いた。

余程親しい間柄の人なのか樹先輩の表情と言葉からは親密さのようなものが窺える。