星空電車、恋電車

「実はさーーー」

山下さんは手にしていたワイングラスをテーブルに置いて私の眼を見た。
何だろう、少し嫌な予感がする。

「倉本君、日本に戻って来てるんじゃないかなと思うんだ」

ああやっぱり。
普通に考えても大学卒業年齢はとっくに過ぎているし戻って来ていない可能性の方が少ない。
山下さんの言葉に妙に納得する自分がいる。

私もそう思ってた。

「千夏ちゃんは倉本君が千夏ちゃんのことを忘れてしまったから会いに来なかったと思ってると思うけど、俺と恵美はそう思ってないんだ」

「どういうことですか」

山下さんが何を言い出すのか想像もつかない。
どうしてそんなことを言うのか。

「俺の会社、どんなとこか知ってるよね?」

「カメラが有名な精密機器メーカー?」

「その通り。それとこれに何の関係がって思ってるだろうけどな。…まあ聞いて」

山下さんは私の戸惑いに気が付いたようだ。

「直接俺の仕事の部署とは関係がないんだけど、仕事関係の書類の中で倉本君の名前を見つけたんだ」

え?
驚きで瞬きもできずグラスを持つ手も止まった。

「俺の会社、望遠鏡用の特殊レンズも作ってるんだ。そこの発注書の中に見つけた。発注元のねーかーのスタッフの中にあった。確かに”倉本樹”の名前で」

「そ、そうですか・・・」

帰ってるんだ。やっぱり帰国して普通に仕事して生活してるんだ・・・。

連絡してこなかったのはもう私が過去の人だからだ。
今までそれを認めたくなかった。