星空電車、恋電車

「すみません。お待たせしました」

「いや、こっちこそゴメン。千夏の都合も考えないで。今大丈夫?」

「はい、もう大丈夫です」

「そうか、よかった・・・」

そう言ってまたスマホの向こう側から言葉が途切れてしまった。
樹先輩は一体何がしたいんだろう。
故郷で話しかけてきたり。今はこうして京平先輩のスマホで電話をかけてくるなんて。

「あの?」

「ああ、ごめん。ちょっと、さすがに言い出しづらいというか・・ああ、本当にヘタレだな、俺」

自分自身に苛立ったような声を出した後にため息のようなものが聞こえる。

再び何の用事かと声を出そうとしたところで、
「千夏」とこちらを探るような樹先輩の声がした。

はいと返事をしてこちらも電話の向こうの様子を静かに窺う。

「これから会えないかな」

え?
「すみません、これからバイトなので・・・」

なぜ樹先輩が私に会いたいのか大いに気になるけれど、あと少ししたらあの新しいバイト先の洋菓子店に行かなければならない。

「そっか。…何時に終わるの?その後は?」

「バイトは夕方までですけど、その後神戸の両親のところに帰省することになっていますのでちょっと・・・」

言葉を濁すと、樹先輩もちょっと言葉が止まった。

バイトの後で神戸に行くことは嘘ではない。でも、それを樹先輩がどう受け止めたかはわからない。
もしかしたら、自分と会いたくないから私が嘘をついていると思ったのかも。

「ホントですよ」

「・・・わかった。本当は直接会って言いたかったけど、時間が作れないみたいだからこのまま電話で伝えるよ」

不意にスマホの向こう側にいる樹先輩の雰囲気が変わったように感じた。
直接言いたいことなんて今さら何があるんだろうかと思ってしまう私は相当心が狭い。

「この春からの交換留学が決まったんだ。イギリスの大学に行くことが決まって。この間地元で千夏に会った時は留学前に実家の両親に顔を出すためだった」

樹先輩の話は唐突だった。

「その前にもう一度千夏と会って話がしたかったんだ。今更だけど、しっかり千夏に謝りたいし」

留学とか謝りたいとかいきなりの話に頭が付いていかない。