「はい、お土産。松浜屋の塩辛です」
「おっ、やりぃ。サンキュー」
私の手からお土産の入った袋を受け取ろうとした京平先輩の手が伸びてきたタイミングを見計らってサッと袋ごと手を引いた。
「なにするんだよー」
お土産の入った袋を掴み損なった京平先輩は眉間にシワを寄せて文句を言った。
「それはこっちのセリフです」
ふんっと鼻から息を吐いて思い切り嫌な顔をしてやった。
「私が結婚式で地元に戻ることを誰かに言ったでしょ」
途端にヤバいという顔をした。
「え、まさか樹と会った?」
「駅のホームでバッタリと。結婚式終わったの?って聞かれましたよ。当然、情報元は京平先輩ですよね」
じろりと睨むと「あー、まぁ、うん」ともぞもぞと居心地悪そうにしはじめた。
「今後二度ともう絶対にこれっぽっちも欠片も樹先輩相手に私の話をするのはやめて下さい。もちろん、私ももう京平先輩には個人的なことはひとっことも言わないように気を付けますけどねっ」
「お前おっかないなぁ。そんなに怒るなよ」
「怒りますよっ」
「もしかして、樹と何かあった?」
デリカシーの欠片もなく聞いてくる京平先輩に更に怒りが増す。
「ありません、ありません、ありませんなーんにもありませんけどねっ」
不機嫌を隠さずに口を尖らせてそっぽを向く。
もうあの子のことは欠片も思い出したくない。
そんな私に京平先輩は両手をすりすりとしながら
「悪かったよー、すまん。だからそのお土産くれよー。謝るからさぁ」と猫なで声をあげはじめた。
「全然悪いと思ってないでしょ!」
「思ってる、思ってるからさ。それくれよう。いや、下さい。下さいよ、千夏様」
挙げ句に両手をテーブルについて頭を下げてきた。
どうやら袋の中の松浜屋の塩辛以外に入れておいた激レア品の塩辛のパッケージが見えてしまっていたようだ。
これは店舗限定販売商品でしかも1日の販売数量も限定。地元の人間でも中々買えないと言われている。
レア中のレア。
実は松浜屋の5代目は叔父の同級生という関係で事前にお願いすることで今回その限定品をゲットすることができたのだった。
これは先輩からのホワイトデーのお返しがあまりに高価なものだったからお返しのお返し的な意味合いで用意したのだけれど。
そうかそうか、だったら違う意味でも先輩には効果がありそうだ。
「だったら約束してください。もう樹先輩に余分なこと言わないって」
「わかった、わかった」
拝みっぱなしの京平先輩に「絶対ですよ」としつこいほど念押ししてからお土産の入った袋を渡した。