「よっ」
ホワイトデーの翌日、京平先輩は一人でカフェに現れた。
本気だったんだ・・・驚く私を横目で笑うと私のバイトが終わるまでカフェで時間を潰していると言ってカフェコーナーに向かって歩いていった。
「ね、だれだれ。今の誰?」
オーナーの娘である美月さんが私のエプロンをくいくいと引っ張る。
「高校の陸上部のセンパイなんですけど」
「うーん。山下さんには明らかに負けるけど、彼もなかなかいいよ、いいじゃない」
京平先輩を見ながら美月さんはにやにやしている。
山下さんを基準にしたら勝てる人はそうそういないんじゃないかな。
ただ京平先輩は見た目はああだけど中身は残念な男子小学生。騒々しくて落ち着きがないから美月さんの好みのタイプではないような気がする。
「陸上部かあ。ちょっとズボン捲ってふくらはぎとか見せてくれないかなぁ」
そういえば美月さん、筋肉フェチでもあったっけ。
「頼んだら見せてくれるかもしれませんよ。昔からノリがいいし」
「えー、ヤダ、ホントにぃ?」
思いきって頼んじゃおうかなーと美月さんはきゃいきゃいとはしゃぎ始めた。
ご機嫌な美月さんに今日は早く上がっていいと言われて、ありがたくそうさせてもらうことにした。
着替える前にカフェで待ってくれている京平先輩の元に向かう。
てっきりスマホを弄って待っていると思っていたのに、教科書らしきものを広げてタブレットを操作している。教科書はびっしりと書き込みがされていて私の知らない京平先輩の姿に驚いた。
「もしかして、勉強してます?」
「・・・そこはお待たせしましたとか言えよ。水口って俺のことなんだと思ってるわけ?」
えーっと。
えへへっと笑ってごまかすと、もの凄くイヤな顔をされた。
「バイト終わったんなら着替えてこいよ。牛丼食いに行こうぜ」
え?牛丼?
マジすか。
食べたい。「牛丼」の言葉に目がキラキラしてしまう。
女子同士の外食で牛丼屋は第一選択になることが少なくて、私もここんとこすっかりご無沙汰している。
「おごってやるから早く着替えてこいって」
「はいっ。すぐに戻ってきますからね」
スキップしそうになる気持ちを押さえて私はロッカーに向かった。
牛丼、牛丼。



