図書館にはもう戻れない。
かなり早いけど、バイトに行こう。
少し泣きそうになったせいで鼻が赤くなったかもと思い、俯きながら足早に駅に向かって電車に乗りこむ。

ドアに向かって立ち流れる景色を眺めていると、不意に地元から神戸に向かった日に乗ったキレイな紺色の電車のことを思い出した。

希望が叶う『星空電車』だとあの駅員さんは言ったけど、恋も陸上の夢も失って乗ったあの電車のどこに私の希望があったんだろう。
おまけにあれから二年たっているのにまだその亡霊に悩まされ苦しんでいる今の私に希望なんてありはしない。

所詮田舎の私電の話題作りの経営戦略。
『星空電車』なんて車体の色が他と違うだけでそんなこと信じるのは夢見がちな幼児だけだろうと心の中で毒を吐いた。



「あれ?ちなっちゃん、今日は課題で遅くなるんじゃなかったの?」

レポートの資料を集めるため図書館に寄りたいと言った私の代わりにカフェの洋菓子売り場のショーケースの前に立ってくれていたのは恵美さんだ。

「あ、えっと。明日でも何とかなるかなって」

そうだった。
早く来た言い訳を考えていなくて、口ごもってしまった。ちょっと首をかしげただけで恵美さんはそれ以上踏み込んでこなかった。

何かあったことは気が付いていたであろうけど、踏み込んで欲しくない時には引いてくれるのが恵美さんだ。

「私、着替えてきますね」

恵美さんの質問から逃げるように足早にロッカーに向かった。