「五十嵐…それで兄はどうしたの?会いに行ったの?」

「えぇ、今行ってますよ。私も行くと言ったんですが、ここは我慢してここにいてくれと頭を下げられたんで、お送りして戻ってきたんです。五十嵐さんって、涼香さんご存知なんですか?」

「…そう、五十嵐さんって、兄の高校の時の同級生よ。同じ医師の道を目指したから医大も同じにはなったけど。私もよく遊んでもらったわ」

「そうだったんですね。その時の話では私分かりませんね。切羽詰まったような感じで話をされていたんで…」

切羽詰まったような感じ…その話を聞いて私は、嫌な予感がした。
確信があった訳でもないけれど、五十嵐さん…そう、夏帆さんの名前を聞いてしまったから。

夏帆さんは兄が付き合っていた人。
きっと陽さんも知らない、その事は…、医大に入った頃から付き合ってる事を言わなくなったから。

確か研修医の期間が終わった頃、実家の病院を継ぐと言って、兄と別れたと話を聞いていた。
兄は、それ以上詳しくも話をしなかったし、私もそれ以上聞かなかった。兄のそれを伝えた時の顔が、聞くなと言っていたから。それから兄は夏帆さんの話をしなくなった。