「はい、最近はどう?」
「なかなか寝付けないくらいで特に何も……」
僕の前でパソコンを操作するその先生は、いつもの柔らかい顔で話す。
「また水族館行ったのね」
「あ」
僕のパーカーのポケットから、真新しいくらげのストラップが顔を覗かせていた。
「あまり独りで出掛けないでね」
辛くなるのは貴方だから、と、先生は言った。
「薬はこのままでいいね。次の予約は……」

診察室から出て、桜ツバサはほっと息を吐いた。

まだ、まだ大丈夫だ。僕は生きてる。

まだ、生きられる。

僕はあと、どれほど生きられるのかわからない。



…………
………
……




帰り道、清々しい青空の下で、冷たい風がツバサの女子にしては短い髪をなびかせる。
「あ、ツバサ」
「和希、迎えに来てくれたんだ」
行きも送るつもりだったのに、と言って、目の前にいる男、白石和希はツバサに歩み寄った。
「父さんが車近くのスーパーに停めて待ってるから、薬貰って早く行くよ」
「うん、ありがと」
桜の従兄である和希はツバサの家の近くに住んでおり、ツバサと同じ公立の高校に通う1年生だ。
和希も桜も帰宅部に所属している。
「今度、ライブハウスでライブやるんだけど、来る? 車の免許取った先輩がメンバーにいるから帰り送れるよ」
「和希バンド組んだの?」
和希がベース弾ける事は随分と前から知っている、が、人見知りな和希がバンドを組むなんて初耳だった。
「そう」
「……行く。観に行く」