――え?

『呆れ』でも『哀れみ』でもない、春の雪解けような穏やかな表情だった。

「あなたの気遣いに感謝する。それじゃあ、また夜に」

「は、はい! 行ってらっしゃい、お気をつけて」

ぎこちなく初めてのお見送りの言葉を口にすると、透さんの冷たいだけだった彼の双眸が、まるで眩しい光を眺めるように細められる。


その濃灰色の瞳の奥には、微かに親愛に似た色が宿っているように見えて……。

心の奥底から、彼と歩み寄れる時間を期待せずにはいられない衝動が、押し寄せてくる。


私の胸の柔らかな部分に、ほのかで優しいあたたかみが灯るのを感じた。