背後からは、娘の婚姻を心から喜ぶ両親がひっそりと啜り泣く声と……涙をボロボロ流す妹の、必死に抑えていた嗚咽が漏れ聞こえている。

今となってはもう、『さっきのキスも言葉も、一体どういう意味なんですか』なんて、家族にとって幸せなこの時間を壊すようなことは、聞けなかった。


「行末長く二人が上に霊幸ひ坐して、高砂の尾上の松の相生に立並びつつ、玉椿八千代を掛けて、家門広く家名高く、弥立栄えしめ給へと、恐み恐みも白す」

神殿にて厳粛に祝詞が奏上され……注がれるままに三々九度の盃を交わし、初めて目にした結婚指輪を交換し合うと、誓詞奏上にて『幾久しく契りを違わぬ』と鎮座する神へ名を告げる。

「三月二十八日。夫、真海透」

「妻、小春」

こうして私たちは互いに愛を感じることなく――〝夫婦〟の誓いを交わした。