伯爵は明らかな疑いの目もってハンナを見つめる。
沈黙の間が心臓に悪い。変な汗が出てきそうだ。
「ふうん……、本当にそう?」
「本当です」
「本当に?」
「……ほんとです」
「そう。………君はあまり嘘をつくのが上手ではないな」
思わず伯爵を見ると、目が合った彼は何故か楽しそうに笑っていた。
いたずらっぽく口の端を上げ、ハンナをからかって楽しんでいるのがわかる。
「わざわざ離れた下町からこの街に出向いてくるのは、よっぽど欲しいものがあったからだろう。違うかい?」
「う………」
図星だ。
ハンナは顔を赤らめながら仕方なくこくりと頷く。
恥ずかしい。やっぱり嘘だと簡単に見抜かれ、確信をつく推測まで言われてしまった。
伯爵は素直に頷いたハンナを見て、面白そうにまた笑う。
いつも見ていた優美な笑みではなく、意外にも幼さが滲んだあどけない笑顔を浮かべる伯爵。
(こんなお顔もされるんだ……)
初めて見る伯爵の一面がとても新鮮だった。
「どうして入らずに見ていたの?」
「…大した理由ではないのですが…」
伯爵の問いかけにどう答えようかハンナは迷った。
自分の姿を力なく見下ろす。
「私のような娘には、こんな綺麗な店はとても場違いで」
「場違い? どうして。どこがそう思うんだい」
「身なりから身分まで、全てです。こんな姿で商店街を歩くのさえ恥ずかしく思えて…」
伯爵は何度か目を瞬かせ、ハンナの姿を上から下へ流し見る。
「…私には何が恥ずかしいのか、わからないな」
「…………」
(私のことを気遣って言ってくださってるんだ…、どこまでも優しい方)
でも今はその気遣いがハンナには切なかった。
ハンナと同じ身分である市民たちでさえ、流行を追った服を着て歩いているのだ。
ハンナの姿はどう見ても地味すぎる。
市民から見てそうならば、伯爵のような貴族にはさらにみすぼらしく映ることだろう。
どうせ会うのであれば、もっと綺麗な服を着て伯爵にお会いしたかった。
こんな目立たない色の服ではなくて、もっとカラフルで明るいワンピースならよかったのに。
でも考えたところでもう遅いし、自分はそんな服は持っていないのだ。


