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「骨折でした。申し訳ありません。」



「柴田君、病院すきだね。先月入院して、また入院なんてね」

俺は
先月大腸の手術をして入院したばかりなのに、昨日、仕事先でベッドを搬入していたら、
床に置いてあった何かにつまづき、
あーやばいわ
絶対いっちゃったわーと、恐る恐る下半身を覗くと、足がとんでもない方向に曲がっていた。
複雑骨折だった。

「危うくベッドの下敷きだったもんねえ。よかったじゃない。」

「部長、申し訳ありません。またお休みすることになって‥」

「いや、柴田くんの新しい営業エリア、この総合病院も入ってるからさ、入院中に医療関係の方々と親しくなっといてよ。ちょうどいいじゃん。ほい。名刺」

部長は
俺に名刺の束を渡した。

俺は渋々受け取った。

「まあ、奥さんと別れて疲れが出たんじゃない?ちゃんとしたもの食べて体力つけなよ。
じゃ、また来るね」

部長はどっこいしょと
ガラガラと簡易椅子を片付けてスーツを整えて帰ろうとした時

軽くノックが聞こえた。

「柴田さーん、失礼いたします〜」

男性の声がした後、スラリと背の高い影がガラス越しに見えた。

「あ、はい、‥‥」

「足の御加減いかがですか?」

え、
男‥?
だよな?
女?
いや、たしかに声が男だった。

帰ろうとした部長も白衣の男性の登場に足を止め
「おおぅ‥」と、低くうなった。

「初めまして。理学療法士の橘です。これから柴田さんのリハビリを担当させていただきますね‥」

タチバナ、と名乗った男性は、
控えめな姿勢で
音もなく静かに近寄り、
丁寧にお辞儀をして綺麗に笑った。

「は、はあ‥」

イケメン、というか、美人、で
思わずヒゲでもないかまじまじと見てしまった。
色素が薄く、髪も明るい茶色にしていて
その上細くて背が高い。

娘が昔よく遊んでいた人形を思い出した。

横に並んでいる部長も
ポカンと見ている。
あれとこれの共通点て二足歩行なとこだけだ。

最近、神さまやっぱ不公平だなあと
つくづく感じる事ばっかりだ。
俺はため息をつきながら
間抜けな部長のほうけた顔をにらんだ。