『大丈夫?』
頭上から降ってきた声を聞きながらも、視界に入るのはスニーカーとグレーのチェック柄のズボンだけ。
それを見てぼんやりと、同じ学校の人だ、と思うしかできなかった。
そんな私を、彼はおんぶして近くの病院に送り届けてくれて……目を覚ました時には、名前ひとつも名乗ることなくいなくなっていた。
つまりまともな手がかりはない。その話に松永くんが呆れた顔をする。
「それでどうやって探す気だよ」
「うーんと……声?」
「声?」
ますます頭に『?』を浮かべる松永くんを見て莉乃ちゃんはおかしそうに笑った。
「あとは私から教えてあげるから、悠はとりあえずノート届けて来ちゃいな」
「あっうん、行ってくるね」
長引いてしまいそうな話を切り上げ、私は慌てて職員室へ向かう。
それを見ながら、莉乃ちゃんたちは教室のある方向へ歩いて行った。
顔も見られなかった、見ず知らずの彼。
だけど全く特徴がなかったわけじゃない。
それは、彼の声。
私をおんぶし歩く間、彼はまるで子守唄のように歌を口ずさんでいた。
あまり音楽には詳しくないから、なんて曲かはわからない。
だけど、低さの中に柔らかさのある優しい歌声。それだけが強く記憶に残っている。
あの声をもう一度聞いたら、絶対にわかる。
だから、声だけを頼りに探すんだ。
そしてまた会えたら、お礼を言いたい。
足を止めてくれたこと、病院まで運んでくれたこと。
ありがとうって、心から伝えたい。



