「夏休み中に駅前で貧血起こしちゃって、動けなくなっちゃったことがあって。その時にうちの学校の制服着た人が近くの病院まで送り届けてくれたの」
それは、1ヶ月ほど前の8月頭のある日。
出かけた帰りに自宅最寄の駅前で体調が悪くなった私は、人ごみの中でうずくまってしまった。
動けず、体を小さく丸めるしかできなかった私を、周囲の人が避けて通っていくのがわかった。
けれど、地面しか見えなかった視界に止まったのは、こちらを向いた黒いスニーカーのつま先。
「へぇ。どんな人だったんだ?」
松永くんの問いに、私より先に莉乃ちゃんが笑って答える。
「それが笑っちゃうんだけどさ、朦朧としてて、まともに顔も見られなくて、“うちの学校の制服を着てた男子”ってことしかわからないんだって」
「はぁ?」
松永くんが怪訝な顔をするのもそのはず。
そう、私は彼の顔を一切見ていない。



