「一回通り過ぎようとして、だけど人混みの中で今にも押しつぶされてしまいそうな小さな姿が心配になって、声をかけた」
真剣な顔で語る彼に思い出すのは、あの日の、頭上から降り注ぐような優しい声。
「声をかけても顔もあげられない、返事もできないその子は、きっと暑さにやられたんだろうと思った。けど、それだけじゃないのかもしれないとも思えた」
「え……どうして」
「なんでだろうね。でも、そんな気がしたんだ。その女の子に『ひとりじゃない』って伝えたくて、病院までの間歌を歌を歌った」
あの日の優しい歌声は、彼が私に呼びかけてくれていた。
『ひとりじゃない』
俯く私にも手を差し伸べてくれる人もいる。
世界は明るいと、教えてくれた。
「その子がまさか同じ学校の子で、歌を頼りに会いにくるとは思わなかったから、最初はわからなかったけど……あの歌に泣いた姿を見て、もしかしてって気付いた」
真紘先輩はそう言いながら腕を伸ばし、涙で濡れた私の頬を指先でそっと拭った。



